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のえる(仮)のなんでもかんそうぶん

札幌市すすきの・大通界隈で(大体)1人で食べ歩きや飲み歩き、読書や日常などのなんでも感想文です。

まるいこおり

自己紹介
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丸氷が好きだ。
たまらなく好きだ。

出会いは大学生の時だった。
卒論をなんとか仕上げ、同じゼミだった友人と飲み明かした。
酔った。
気が大きくなるほどに酔った。
酔う事とは時に素晴らしい。
普段気にも留めなかったオーセンティックバーに、戯れに入ることにした。

酒の種類なんてこれっぽっちも分かっちゃいない。
なんとなく大人な雰囲気を演じたくてウィスキーを頼んだ。
「美味しいの…下さい。」
出されたのは山崎12年。
オンザロックだった。
ロックグラスに美しい液体、そして丸氷。
初めて見る様式美は心を捉えた。

以来十数年、丸氷は私の心を掴んで離さない。
ことあるごとにバーに赴き、ウィスキーをオンザロックで頼む。
バーテンダーがグラスに丸氷を落とす。
乾いた綺麗な音がする。
メジャーカップから氷の上を滑り落ちる液体。
ピシッという小さな音。
表面の薄くて白い霜が取り除かれた丸い氷は曇りがない。

その美しさが好きだ。
クラリティはグラスに湛える液体の色を忠実になぞる。
そして店内の間接的な明かりを、ほんの少しだけ受け取って控えめに輝く。

その形が好きだ。
「丸いものはなぜ幸せなんだろう」
なんてBONNIEも歌っていたけど、その柔らかな形状は、今ここに居ること、楽しめることの幸せを感じさせてくれる。

その背景が好きだ。
溶けにくいように、気泡が入らないように生成された氷。
私の訪れを待ってバーテンダーがそれを削り出す。
そして私の為だけに提供される。

その緊張感が好きだ。
常温の液体が氷によって冷やされる。
状態を変化させようとする力強さが感じられる。
香りまでが引き締まり、鼻腔をつつく。

その努力が好きだ。
話に夢中になるとなかなかグラスを口に運ばない。
それでもじっと我慢しながら液体を冷やしてくれる。

その優しさが好きだ。
液体の味わいと香りは私を刺激し、満足させる。
その後ゆっくりと自らを溶かしながら液体の強さと味わいと香りを変え、先ほどとは違った満足感を与えてくれる。

その寂しさが好きだ。
飲み干された液体の色は失われ、透明さだけが残る。
下回りはえぐれ、もう丸くはない。
傾いた拍子に「またね」と語りかけてくる。

丸氷が好きだ。
ただ好きだ。